TO-KI Timber Shift Award トークイベントレポート〜「水と木」の新たな関係性を探る、3人の審査員の視点と対話〜
広島県木材組合連合会の第50回記念事業として開催されるアイデアコンペ『TO-KI: Timber Shift Award』のトークイベントの模様をお届けします。前半は審査員3名による自己紹介と活動発表、後半はコンペのテーマ「水と木」に向けたディスカッションが行われました。
【前半:三者三様のキャリアと活動発表】
■ プロダクトデザイナー・大治将典氏:「作り手との共創と流通の構築」
私は元々広島工業大学で建築を学んでいましたが、空間のスケール感が掴めず、建築は向いていないと挫折しました。その後、グラフィックデザインを経て、自分がデザインしたものが流通して人の手に渡っていくプロダクトデザインのダイナミズムに魅了されました。
20代の頃はコンペに多数応募し、大きな賞も取りましたが、メーカー自身がマーケットを持っていなければ、いくら賞を取っても商品化されないという現実に直面したのです。 そこで、単に物を作るだけでなく、流通の仕組みやブランド自体を構築する必要があると考えました。
現在は富山の真鍮メーカー「FUTAGAMI」や有田焼の「JICON」、木製品メーカー四十沢木材工芸と協働したブランドなどの立ち上げからプロデュースを行っています。また、作り手と売り手を繋ぐ場として「ててて見本市」を立ち上げ、10年間にわたり流通のエコシステム作りにも取り組んできました。
■ 建築家・杉田宗氏:「デジタルファブリケーションによる実物制作」
私は高校時代からアメリカに留学し、13年間海外で過ごした後、2010年にペンシルベニア大学の大学院を修了して広島に帰ってきました。私が学んでいた2000年代から2010年代は、情報技術が急激に建築業界に流入し、環境シミュレーションやコンピューター制御の機械をつかったものづくり(デジタルファブリケーション)が使われ始めた時代でした。
帰国後、2015年から広島工業大学で教育に携わっています。大学では、デジタル技術を用いながらも「実物を作る」という実践的な教育に力を入れています。例えば、学生がゼロからデザインした椅子を実際に機械で加工して40脚組み立てたり、山根木材さんとのプロジェクトでは、コンピューターで設計した複雑なパターンの木組みや階段の部材を工場の機械で加工し、実際に現地で学生たちと組み立てるといった取り組みを行っています。
■ グラフィックデザイナー・中山慎介氏:「ギミックを取り入れたビジュアル表現と空間への拡張」
私も大治さんと同じく広島工業大学の出身です。就職氷河期の中でデザイン会社に就職し、現在はグラフィックデザイナーとして活動しています。今回の『TO-KI: Timber Shift Award』ではロゴやビジュアルデザインを担当しており、「水」と「木」という文字のパーツを分解して組み合わせると「時」という文字に変化するというギミックを取り入れました。
仕事の領域はグラフィックにとどまらず、建築家と協働して「ヤマヤマミタ」や山口の複合施設「iroherb」などの空間づくりに携わったりしています。また、実験的なビジュアル表現を追求した400ページを超えるアートブックの制作など、幅広いクリエイティブを行っています。
【後半:3人の対話 〜コンペ「水と木」に向けて〜】
異なる領域からの視点とリファレンス
大治氏:私はプロダクトを中心にやっているので、物が空間に置かれた時にどう見えるか、スケール感や光の当たり方などをイメージしながら作っています。建築の人のパースの捉え方とは違うかもしれませんが、建築を学んだことによる独自の視点はあると思います。中山さんはグラフィックにおいて、どのようにアプローチしていますか?
中山氏:ゼロから何かを生み出すのは誰もできないと思っていて、普段から様々な体験やリファレンスを頭の中にたくさん貯めておくようにしています。そこから、自分が実際に体験して染み込んでいるものを掛け合わせて、アイデアをジャンプさせるという筋トレのようなことをやっていますね。
杉田氏:私の場合は、今回のコンペにも通じますが、材料をどう扱うかから得る学びが非常に多いです。材料を実際に切ったり組み立てたりする中で素材の特性を知り、「作る喜び」を感じることが、建築をやる上で重要だと思っています。
メーカーを巻き込む「余白」のブランディング
大治氏:メーカーさんとものづくりをする時は、現場の技術や素材の特性を肌感覚で理解し、職人や経営者が見過ごしている価値をどう再発見するかを考えます。デザインを完璧にコントロールしすぎず、作り手が介入できる「余白」を残すことが重要なんです。例えば「FUTAGAMI」の製品では、あえてメッキをしない「鋳肌」を提案し、展示会の直前に、最終的にどの肌合いが一番良いかの判断を社長に任せました。メーカー自身が発信して作ったと思える余地を作ることが大切です。
杉田氏:作る人が最初は「冗談だろう」と半信半疑でスタートしても、どこかで変わる瞬間があるんですか?
大治氏:ええ。試作を作る段階から一緒に伴走して、リスクを取っても大丈夫だと思えるくらいにワクワクして、面白がってもらうように焚きつけます。このブランドと一緒に生きていきたい、と作り手も使い手も思えることが僕の考えるブランディングです。
コンペで勝つための圧倒的な「量」
中山氏:大治さんが20代の頃、コンペに出しまくってコツが分かってきたと言っていましたが、そのコツを教えてもらえませんか?」
大治氏:まずは審査員が何を重視しているかのリサーチと、その素材でできることを追求することですね。でも一番大事なのは、自分が感動できているかどうか。自分が感動できないもので人を感動させることは絶対にできません。
杉田氏:私も日本に帰国した直後、フランス建築家のジャン・ヌーベルが事務所設立時に100個コンペを出したことを知って、それならと毎週1個、1年間で50個ほどのコンペに出し続けたことがあります。
中山氏:毎週1個!それはきついですね!
杉田氏:建築のコンペだけでは数が足りないので、襖のデザインなどすこしでも建築に関係しているものであればなんでも出しました。数をこなしていくと要領が分かり、自分が何に感動するのかが明確になってくるんです。質を生み出すには圧倒的な量が必要不可欠だと思います。
相性の悪い「水と木」へのアプローチ
中山氏:今回のテーマ「水と木」について、学生への手がかりになるヒントはありませんか? 例えば「紙コップ」は、水と最も相性が悪いはずの紙で水を貯めるという逆転の発想で作られ、軽くて捨てられるという新しい価値を生みました。水と木も一見相性が悪いと思われているからこそ、そういった面白みが発揮しやすいテーマだと思います。
大治氏:まずは木があることの心地よさや、木の良さを再発見してほしいです。キッチンや雨樋など、昔は木でできたのに今はできないことを木でやってみるのも面白い。また、水と木にはグラデーションがあります。宮島の鳥居がずっと水に浸かっているからこそ腐朽菌が入らず腐らないように、「耐水」だけでなく「浸水」側のアプローチなど、逆転の発想もあるはずです。」
杉田氏:僕が審査で一番見たいのは、作り手が興奮するようなアイデアです。最初は「冗談だろう」と思っても、実現に向かうにつれて感動に変わっていくような可能性を見極めたいですね。
アイデアの生み出し方とデザインの本質(質疑応答より)
学生からの質問:「アイデアを形にする時、何から始めればいいか分からなくなるのですが、アドバイスはありますか?
大治氏:私は日常の中で感じた「違和感」を大量にストックしています。そして、それに対して「これを木材で作ったらどうなるか」という大喜利を100個くらい繰り返します。アイデアに執着せず、どんどん書いては捨てることを繰り返していくと、最後に本当に光るアイデアが見つかるんです。
中山氏:グラフィックの場合は、形から入ると方向性が見えなくなってしまいます。だから「何を伝えたいか」という目的から入り、そこに向かって表現をじわっと絞り込んでいきます。そして、自分のやった仕事で「誰かがハッピーになるかどうか」が、自分の推進力に変わるんです。
大治氏:デザインってアイデア力と思われがちですが、実は「実現力」であり「人間力」なんです。「この人と一緒に実現したい」と思ってもらえるように、あの手この手を尽くして環境を作っていく。それを大変だと思うのではなく、超楽しいと思ってやれるかどうかが一番大切ですね。